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最近新しくした液晶テレビの中で見知った男が笑っている。最近はドラマに映画、そしてその宣伝のためにいろいろなバラエティにも出ている彼を見ない日は無い。今日はクイズ番組のようだ。簡単な常識問題を堂々とその男は間違え芸人にさえもいじられている。そういえば頭は吃驚するくらい悪かったなぁ、なんて風呂上りの肌のケアをしながら見ていた。

「お風呂洗っといたっスよ」
「んーご苦労」

隣に座ったそいつは半裸で首にタオルを掛けていた。ちゃっかり手には自分専用の肌ケアグッズも持っている。女の子よりもずっと自分磨きを頑張っているのは知っているけれども、別に何もしなくても彼は綺麗なんじゃないかと思うのは私だけでしょうか。

「名前がさっさと上がるから寂しかったんスよ」
「黄瀬が盛るからでしょーが」
「結局そうなるんだから別に良くないッスか?」
「お風呂はのぼせるから嫌なの」

一緒に入ってあげているだけでも感謝をしていただきたいくらいである。もともと私は風一人で入りたい派だし、むしろお風呂が嫌いなのでシャワーだけでも十分なのだが、黄瀬が一緒に入りたい入りたいと五月蝿いから仕方なく10日に一回ぐらいは、と付き合っているだけである。

「あ、これこの前収録あったやつじゃないッスか」

昔は黄瀬の言うこの前が分かったけれど、今ではいつのことか分からない。それくらい毎日毎日仕事が入っているという事だ。黄瀬が有名になって嬉しいような寂しいような、複雑な思いになっている私に黄瀬は気づいていない。
高校を卒業して大学には進まず芸能界での活動を本格的に始めた黄瀬と、都内の私立大学に進学した私とではさすがに上手く行かないのではないかと周りの皆は心配してくれていた。けれど実際は逆で、私の家に毎日のように転がり込んでくる黄瀬のせいで寂しがる時間も無い。どんなに夜が遅くなっても来ると言った日は必ず来て、気がついたら隣で寝ている感じなのである。週刊誌に撮られでもしたらと何度も注意はしたが黄瀬は聞く気が全く無かった。バレたって別に良い、いろいろな人と遊んでいる訳でもないし疚しいことなんか無い。と言われた時には私も事務所の人も口をつぐむしかなかった。

「こんなの見るより俺の相手してよ」
「え〜…」
「明日休みならいーじゃん」

どんなに渋っても最後には私を抱えてでも連れて行こうとすることは目に見えていたので、仕方なくベットに入った。一応私も渋りはするが、黄瀬と身体をあわせることは嫌いじゃないし、寧ろ好きだ。私に触れて居るときは黄瀬の全てを一人で独占できているから。

「何日ぶりだっけ?」
「黄瀬の地方ロケがあったから、一週間くらい」

そんなになるんだっけー?といいつつ私の服の中に忍び込ませて来たその手は風呂から出ていくらか時間が経っていたけれどまだ暖かかった。バスケをしていたせいで皮が厚くなった掌が実は結構好きだった。私の胸なんか簡単に包み込んでしまうほど大きな掌はどうしてか私の肌に馴染んでしまう。

「ばんざーい」
「もう、いちいち言わないでよ」
「いーじゃん」

クスクスと笑いながら私から奪ったシャツを床に投げた後、再び合わせた視線はもういつもの彼ではなかった。
食むようなキスから流れるように肌を伝っていく唇に翻弄されてしまう。片手は必ず繋いだままで、きっとやり難いだろうに彼はその手を離すつもりは無いらしい。腹や胸に時折痛みを感じるのは独占欲の痕を残しているせいだろうが、それにすら身体を震わせてしまう私もどうかしている。

「ねっ、ね…」
「どうしたんスか」
「…もう、いいから…黄瀬」
「嫌」

いつまでも腰から上にしか愛撫を与えてくれないことにもどかしくなって我慢ができなくなり
、膝を摺り合わせているのにまだ黄瀬は核心には触れてくれない。これは一種の拷問ではないだろうか。黄瀬が片手の自由を失っているのと同じで私の片手も自由を失っている手前、空いた手で黄瀬の肩を押しても何の解決にもならない。昔は私もじれったさに負けて泣いたりしていたけれどさすがに今となってはそんなことはない。いい加減にしろと軽く足を蹴ってやった
。それでもまだ黄瀬はやめる気が無いらしい。

「あんまり足癖悪いと縛るッスよ」
「っ…〜、ばか!」
「はいはい」

するりと繋いでいた手が離されて短パンと下着を一緒に脱がされた。それもベットの下に投げ捨てられた。私だけが裸にされてしまって黄瀬はまだ一枚も脱いでないのは卑怯なので、起き上がって彼のシャツに手を掛けた。バスケを引退して四年目になろうとしているのにいまだ衰えることの無い腹筋は相変わらず美しい。

「いー眺め」
「もう見飽きてるでしょ」
「何回みても飽きないけどね」

ちゅ、と軽くキスをして鼻を合わせたまま黄瀬は微笑んだ。いつの間にこんなに大人の男になってしまったのだろうか。抱き方だって、昔はとても性急に身体を貪っていたのに今ではゆっくりと、それでも情熱的に求められるようになった。

「慣らさなくても入りそう」
「やだ」
「冗談ッスよ」

自分でも恥ずかしいくらいに濡れていることには気づいていた。それでもきちんと慣らしてくれないと嫌なのは多分私じゃなくて世の中の女の子は皆同じなんじゃないかな。
この後に入れられるものに比べれば黄瀬の指なんて細いものだけれど、中を広げられる感覚はやはりゾクゾクするものがある。卑猥な音も恥ずかしくてあまり好きではないけれど、それを知っていて黄瀬はわざと激しく音をさせているのだ。

「…っ、ふぁ…ん…ん」
「声出してよ」
「や…だぁ、ばか」

はいはい、と私を軽く受け流しつつ、ベットサイドから避妊具をとり自身に着けていた。するするとゴムを綺麗に被せていく様を眺め過ぎると変な気を起こして「舐めて?」とか言われる事を何度かの経験で分かっているので直ぐに目は逸らした。
被せ終わってキスをして、先端を何度か擦り付けてから一気に突き刺されるという流れは滅多に無い。自分でこれからの流れを頭の中で完成させている時点で黄瀬との付き合いの長さが身に染みた。

「名前」
「うん?」
「すーき」
「…はいはい」

犬みたいに擦り寄ってきた黄瀬の背中に手を回し、全てを快楽の海に投げた。


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